LONG-DISTANCE · EKIDEN ARCHIVE全国の長距離・駅伝記録を 集約・横断検索
ランナーの悩み

「練習しても伸びない」その不調、エネルギー不足かも ― RED-S(相対的エネルギー不足)

「トレーニングで使うエネルギー」に対して「食事で摂るエネルギー」が足りない状態=RED-S。 免疫・骨・ホルモン・メンタル・持久力までを静かに削る問題を、 データと生理学から解説します。

最終更新: 2026-07-14
記録が頭打ち。 むしろ落ちている。
風邪をひきやすい。 お腹の調子も悪い。
気分が晴れない。 集中できない。
― でも、 どこも"異常なし"。

長距離、 トライアスロン、 サッカー、 自転車。 真面目に追い込んでいるアスリートほど、 この「目立った症状はないのに、 なんとなく調子が悪い」状態にハマりがちです。

その正体が、 近年スポーツ医学で最も注目される概念のひとつ、 RED-S(レッズ/スポーツにおける相対的なエネルギー不足)かもしれません。 簡単に言えば、 「使うエネルギー」に対して「摂るエネルギー」が足りていない状態。 体は生命維持を優先し、 免疫・骨・ホルモン・メンタル・そして競技パフォーマンスを静かに削っていきます。 原因 → 解決策 → 予防策の順に整理します。

1. 「自分には関係ない」が、いちばん危ない ― 数字と実例

数字で見るRED-S/エネルギー不足のリアル

「一部のストイックな選手だけの話」ではありません。

  • 複数研究のレビューで、 利用可能エネルギー不足(LEA)の有病率は22〜67%、 平均で約40%。 持久系の2〜3人に1人が該当しうる。
  • 日本人女子選手約300人のデータでは、 無月経39%、 LEA 14%、 低骨量または骨粗しょう症23%
  • かつての「女性アスリートの三主徴」から研究が進み、 男女・パラを問わない問題としてIOCが「RED-S」を提唱。
  • 男性対象の研究でも、 エネルギー不足群はトレーニング反応の低下が約2.6倍、 持久力の低下が約2.3倍多かった。

最も重要なのは影響範囲の広さ。 IOCの声明は、 RED-Sが月経や骨だけでなく、 発育・精神・心血管・消化器・免疫・内分泌・代謝・血液など全身に悪影響を及ぼし、 結果的にパフォーマンスを低下させると警鐘を鳴らしています。

つまりRED-Sは、 「不調の総合商社」。 あなたが抱える複数の小さな不調が、 実は"ひとつの原因"でつながっているかもしれない。

生の声・実例 ― "クリーンな食事"が裏目に出ることも

落とし穴は、 意識の高い人ほどハマりやすい点にあります(以下は各所で語られている事例の要約です)。

ある持久系アスリートの事例
「14ヶ月で3回、 仙骨や肋骨を疲労骨折した。 最初はフォームのせいだと思っていたが、 本当の原因は慢性的なカロリー不足だった。 "できるだけクリーンなもの"を選び続けた結果、 総摂取カロリーが足りなくなっていた」

身体に良いものを選んでいるのに、 総量が足りない。 これがRED-Sの怖さです。 現場の認識もまだ追いついておらず、選手もコーチも「RED-S」という言葉自体をほとんど知らなかったという調査もあります。 無月経を「練習が足りている証拠」と捉える旧来の価値観も根強く、 だからこそ選手自身が正しく知っておくことが最大の防御になります。

2. 原因 ― なぜ"赤字"が生まれ、全身に波及するのか

① 核心はシンプル:「摂取 < 消費」

食事で摂るエネルギー -(トレーニング+日常生活+成長で使うエネルギー)= マイナス。 この「利用可能エネルギー(生命維持に回せる分)」が不足すると、 体は生き延びることを最優先し、 "後回しにできる機能"から順に供給を絞ります。

② なぜ"気づかない"うちに陥るのか

意図的な減量だけが原因ではありません。

  • 練習量を増やしたのに、 食事量を増やしていない(消費だけ増えて赤字に)
  • 成長期で、 本来成長に使うべき栄養まで運動で消費されている
  • 「軽い方が速い」という思い込みからの体重管理・食事制限
  • 食欲低下や、 ストイックすぎる"クリーン志向"による総量不足

③ ドミノ倒しのように全身へ

エネルギーが欠乏すると視床下部からのホルモン分泌が低下。 これが引き金となり連鎖が起こります。

  • 女性:エストロゲン低下 → 月経異常 → 骨密度低下 → 疲労骨折
  • 免疫機能の低下(風邪をひきやすい)、 胃腸障害、 抑うつ・気分の落ち込み、 貧血
  • そして持久力・集中力・判断力・トレーニング効果の低下

メカニズムはオーバートレーニング症候群とも共通で、 「頑張っているのに伸びない」状態の背後でしばしば同時進行しています。

3. 解決策 ― 「赤字」を黒字に戻す

✅ まず"出血"を止める:消費を減らし、摂取を増やす

やることは1つ、 利用可能エネルギーを増やすこと。 方法は2方向です。

  • 摂取を増やす:減らすのではなく足す。 特に糖質(炭水化物)は持久系の主燃料。 ご飯・パン・麺・補食をしっかり。
  • 消費を見直す:練習量・強度が今の自分に見合っているか立ち止まる。 「みんなやっているから」で量を盛らない。

✅ 自分の"収支"を数字で把握する

  • 必要エネルギーは、 筋肉量の多いアスリートでは体重より「除脂肪体重」ベースで見たほうが精度が高い。
  • カロリー計算アプリで数日間の摂取量を記録してみる。
  • 体重・体組成・コンディションを継続記録し、 急な体重減やパフォーマンス低下のサインを早期に拾う

※ 数値はあくまで目安。 「足りているか」を一人で完璧に判断するのは難しいため、 次の専門家への相談とセットで。

✅ 専門家チームを頼る(自己判断で抱え込まない)

  • スポーツ内科医・婦人科医(月経異常・疲労骨折があれば必須)
  • 公認スポーツ栄養士(具体的な食事プランの設計)
  • LEAF-Q などのスクリーニングや重症度評価ツールも活用される

疲労骨折・無月経・抑うつなどが出ている場合は、 様子見せず早めに受診を。 回復に時間がかかるからこそ、 早さが効きます。

4. 予防策 ― "頑張り方"を間違えないために

🥇 「練習を足したら、食事も足す」を鉄則に

消費が増えた日は、 摂取も増やす。 運動に必要な分+日常生活+(成長期なら)成長の分まで確保が必要です。

🥈 「軽い=速い」の思い込みを手放す

過度な体重管理・食事制限は、 疲労骨折・故障・パフォーマンス低下で結局は遠回り。 除脂肪量(筋肉・骨)を削らず、 体脂肪だけを適切に。 極端な制限は代謝を落としむしろ不利です。

🥉 自分の"体の声"を否定しない

  • 疲労感を「気のせい」「根性が足りない」で打ち消さない。 疲れたら休むを許可する。
  • 他人と比較してメニューを盛らない。 最適なトレーニング量は人それぞれ。
  • 女性は月経の有無・周期を重要なコンディション指標として記録する(無月経は"順調"のサインではなく警告かもしれない)。

その他、効いてくる仕込み

  • 定期的な血液検査・骨密度検査で、 貧血や低骨量を数値で早期発見。
  • RED-Sという概念を、 選手・指導者・保護者が共有しておく。 知っているだけで防げる事例は多い。
  • 補食(おにぎり、 バナナ、 補給ドリンク等)で1回で摂りきれない分を分割して確保する。

まとめ:エネルギーは"ケチる"ものではなく"投資"するもの

  • 持久系アスリートの2〜3人に1人が陥りうる、 ありふれた問題で、
  • 免疫・骨・ホルモン・メンタル・持久力まで、 全身を静かに削り
  • ストイックで真面目な人ほど気づかぬうちにハマりやすく、
  • 練習を足したら食事も足す」「軽さ信仰を手放す」「体の声を聞く」で予防できる

「なんとなく不調」は、 気合いの問題ではないかもしれません。 食べることも、 トレーニングの一部。 エネルギーをケチらず正しく投資する ― それが長く・強く走り続けるための土台です。 思い当たる節があるなら、 まずは数日の食事を記録するところから。 不調が続くなら、 一人で抱えず専門家のドアを叩いてください。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、 個別の診断・治療に代わるものではありません。 月経異常・疲労骨折・気分の落ち込み・摂食の悩みなどがある場合は、 医師・スポーツドクター・婦人科医・公認スポーツ栄養士などの専門家に必ずご相談ください。 体重や食事はデリケートなテーマを含みます。 つらさを感じる際は、 一人で抱え込まず、 信頼できる人や専門家に話してみることをおすすめします。


ほかのガイド